「脳の可塑性」ってなに? 「可塑性」ってどう読むの?
こんなことで本書が敬遠されてしまったのでは、あまりにもったいない。
「可塑性」は「かそせい」と読むのだが、簡単に言ってしまえ「変形しやすさ」ということだ。「記憶と学習」においては、脳神経のシナプスの活動状態などによってシナプスの伝達効率が変化する。いやいや、これじゃまだ難しすぎるな・・・。
「脳の可塑性」は、より正確には「脳の神経可塑性」ともいうが、脳科学で記憶について考える際にはきわめて重要な概念なのだ。
本書は、短いが簡潔にまとめられた「記憶と学習」にかんするわかりやすい解説書である。
コンピュータの記憶(メモリー)と人間の脳の記憶(メモリー)の違いについて、脳科学の成果をもとに詳述した警告書『ネット・バカ−インターネットがわたしたちの脳にしていること−』(ニコラス・カー、篠儀直子訳、青土社、2010)が話題になっているが、ここでも「脳の神経可塑性」という概念がきわめて重要な意味をもっている。
本書『脳の可塑性と記憶』は、「脳の可塑性」にかんしては、最初から日本語で書かれた一般向けの本なので、翻訳本よりははるかに読みやすい。最先端を走っていた研究者が、学問的水準を落とすことなく本質的なことを、平易なコトバと豊富な図表で語っている。
私自身もそうだが、脳科学の専門家ではない一般人が脳科学に関心があるのは、なんとかして記憶力を増強したいという切実な思いからだろう。
このテーマにかんしては大脳の海馬に焦点をあてた『記憶力を強くする−最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方−』(池谷裕二、講談社ブルーバックス、2001)があるが、専門用語を極力使用しないで一般向けに書かれた本なので、やや物足りないものを感じる読者がいるかもしれない。そういう人はぜひ本書を手にとってもらうのがいいと思う。
著者は、まことにもって不幸なことに、いまから25年前の御巣高山の日航機事故で亡くなっている。そのため本書も一部は未完成のまま残されているのだが、解説によれば、残念ながら「脳の可塑性と記憶」の分野の解明は、その後もあまり進展していないらしい。だから、内容的には陳腐化していないようだ。
その意味でも、本書は知的な関心の高い一般人が読める、「記憶と学習」にかんするすぐれた一般書である。敬遠することなくぜひ手にとってほしい一冊である。