2002年9月17日を境に、日本社会の北朝鮮への関心はそれ以前とは比較にならないほど高まった。テレビをつければ北朝鮮が映っていた時期があり、「脱北者」と呼ばれる人たちにも注目が集まった。
本書は、元バックパッカーで、ただ旅をすることが好きな青年が、NGOの脱北者支援活動の現場に飛び込み、任務を遂行する過程を詳細に綴った骨太のノンフィクション作品である。
前半では、70年代に帰国事業で北に渡った元在日朝鮮人の姉妹を、中国からベトナムへ脱出させる道行きを描く。身分証を持たない彼女らは飛行機に乗ることができず、検問や通報を警戒しながら列車での移動である。長い道中に交わす会話で、姉が語る懐かしい日本の思い出。同年代の者ならば誰しも共有できるであろう当時のヒット曲や食べ物のことなど。読んでいるこちらまで、自分の思い出が蘇ってくるような感覚を覚える。
後半は一転し、別の作戦中、同行の脱北者とともに中国公安に拘束され、投獄された留置所での生活の様子が描かれている。日本の常識ではとても考えられない中国的看守所生活の実態。著者は自責の念と先の見えない運命に絶望もするが、そういった自身の心の動きまで冷静に事細かく書き記している。時には何とも言えない可笑しさやせつなさを感じさせる他の中国人収監者たちとの不思議な交流が印象に残る。
全編、引き込まれるようにして一気に読了した。
私自身は、テレビや活字の伝える脱北者の姿に同情しつつも、何も出来ないと割り切り、ただ傍観するのみだ。しかし、同時期に、無鉄砲にも彼らのために体を張って活動している人物がいる事を知った今、何とも言えない不思議な感動を覚え、改めて脱北者たちが辿る過酷な運命に思いを馳せる。