不思議な味わいのあるハード・ボイルドです。『カサブランカ』のパクリだと酷評されている(実際ホークス監督も確信犯的にやっている)一方、本作品に描かれた理想の男女像にすっかり魅惑される人も多いのです。かつて何度も見ていた時には軽いタッチに感じていたのですが、久々に見返してみると、手術のシーンのように案外と重苦しい雰囲気に満ちています。元凄腕航海士、現アル中のW.ブレナンの役どころも微妙で、恐らくこの完成形が『リオ・ブラボー』のD.マーティンになるのでしょう。ヘミングウェイの原作のかけらも残らず、それよりも台詞の端々に脚本参入のフォークナーの影が漂っています。
作品の持つスケールとドラマ性は『カサブランカ』の方が上だと言わざるを得ないです。しかしボギー&バコールという絶妙のカップルが配され、フィフティな男女関係が描かれたという点で、この映画は別次元の至高の傑作となりました。独立したタフな男女が出会い、もたれ合うことなく、しかし深い信頼と愛情で結ばれるという夢のような関係です。
そもそもバコールの演じたスリムは元々はちょい役に過ぎなかったそうですが、彼女自身の魅力が甚大なためどんどん役割が膨れあがり、そしてついにはH.ボガートを現実に魅了してしまった訳です。これがハリウッド史上最高のおしどり夫婦誕生のなれそめですが、本来の彼女は剽軽な性格で(本編中でもう一人のヒロインの物まねをしたりしている部分なんかにそれがうかがえます)、ボギーが彼女に惹かれたのはどちらかと言えばそういう一面になのかも知れません。私は豪華キャストひしめく『オリエント急行殺人事件』で彼女が一頭抜けて存在感を示していたのが忘れられませんし、今なお『ドッグヴィル』に顔を出しています。女優としても女性としても、本当にタフな生き方をしています。これもまた一つの理想を我々に示してくれるのです。こんな素晴らしい女性がいるんですね。