幕末以来の日本の経済政策を「政策レジーム」という視点から分析する。著者は、歴史分析の意義について、現代のマクロ経済学は、情報処理能力の飛躍的な発達により、ミクロ的基礎を有するマクロ経済モデルによる政策シミュレーションが可能になったが、政策の採用プロセスには、政治プロセスや政策思想など数値化されない要素が働くことや、経済主体の期待形成プロセスには、過去における「経験知」や思想、哲学などが反映されているはずであり、歴史的な実証分析は、必ずしもその重要性を失ってはいないと述べる。実際、本書に取り上げられた時代の動きは、容易に、現代にも重ね合わせてみることが可能である。しかも、現代の経済論議の中で、このような過去の「経験知」が、いかに顧みられることなく進んでいるかということを強く認識することになるだろう。
松方財政の成功は、決して、いわゆる「創造的破壊」によってもたらされたものではなく、井上財政の失敗は、正に、その誤りを示す実例となっている。「創造的破壊」論の誤りという事実は、日本の雇用システムを「破壊」することが新たな雇用を生み出す、といった一部にみられる動きに対する批判にも成り得るものである。一方、高橋財政におけるリフレ過程では、再配分政策に消極的な姿勢をとったため、結果的に景気回復の恩恵を受けることの出来ない層を生じさせ、このことが「大東亜共栄圏レジーム」の台頭を招くこととなる。このような事実の一つ一つを虚心坦懐に検討することは、昨今の格差論議において有益な答えを導く上でも重要なことといえるのではないか。