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そんな話をたまたましたところ会社の同僚が私に勧めてくれたのがこの「胡蝶の夢」です。幕末の蘭学者たちを描いた長編歴史小説です。とりあえず第一巻を読んでみました。
漢方全盛の時代にあえて蘭学による医療を目指す若き医師・良順、そしてその付き人的存在で外国語習得に異能を見せる伊之助。満足な辞書もなければ、十分な教科書もなく、ましてや録音教材などは皆無の時代に、次代の日本のためにオランダ語を身につけようと奮闘していく若き主人公たちの姿を大変興味深く読みました。
時代がまだついてきていないほどの最先端を走る彼らにとって世間の風は決して温かく応援はしてくれません。開拓者の宿命でしょう。いつの時代も外国語を身につけようなどという酔狂に走る御仁は奇妙奇天烈な異人扱いなのかもしれません。
主人公たちに自分の姿が重ならないでもないので、とりあえず第二巻へと進んでみようと思います。
司馬の作品には戦争や革命といった政治的な題材が多いが、本作はいっぷう変わっていて、幕末を医療から俯瞰している。
実は西洋医学は、270年続いた士農工商という強固な身分制度を根底から覆す革命的思想であった。なぜなら、西洋医学は、医は身分の貴賎を問わない、という思想をごく当たり前のものとしていたからである。身分を問わず入院できる「病院」というものは幕末まで日本には存在しなかった。だから、大変不思議なことではあるが、病院を創設するということは、そのまま江戸期の社会秩序の破壊行為だったのである。
本作は、徳川慶喜の侍医であった松本良順、その師ポンペ、良順の弟子、島倉伊之助を中心に、幕末の医療が明治維新にどうかかわっていったかを描いている。良順はポンペを通じて西洋医学を学び、医の前に四民は平等であるという思想を得て、当時の被差別階級の解放にも力を尽くした。他に順天堂の創始者、佐藤泰然、東大医学部の祖、伊東玄朴、大阪大学医学部の祖、緒方洪庵など、多士済々、綺羅星の如き登場人物たちに彩られている。
またいつもとは異なり、解説者としての司馬自身はあまり登場せず、より物語色の強い作品になっているため、歴史だけでなくストーリーそのものを楽しむこともできる。ちょうど「翔ぶが如く」の連載を終えた直後に書き始められたが、50代半ばになって作風もさらに重厚さ、思想性を増してきた。歴史性と物語性の調和に優れた小説として是非、お勧めしたい作品である。
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