本書は、19世紀後半から現在までを50年刻みの三期で捉え、それをナダール、ザンダー、リチャード・アヴェドンという三人の写真家の作品の「差異」を通じて、「記述された歴史とは違う歴史」を浮かび上がらせようと試みた一冊です。したがって、作者はそれぞれの作品の細部に目を凝らすことによって、その向こうの撮影者の視線を読み取ろう、読み解こうと試みます。いわく、各章の表題にある「ブルジョワの理想」であり、「二十世紀の全体像」です。しかし、つまるところ、「写真は言葉にはならない視覚的な直感を与え」、「提示するだけである。判断はしないのである。」(P124〜125)とする作者は、読者である我々にそれぞれの作品が喚起するイメージ、呼び起こす感興に身を任せ、享受することをのみ促しているようにも思えました。こういった分野にはまったくの門外漢の僕が支障を感じさせられる専門用語など使われることなく、あとがきにもあるように素人を対象にした講演会でも聞いているような気安さがあって、含蓄に比してとても読みやすい作品だと思います。