宇江佐作品は『卵のふわふわ』に次いで2冊目ではありますが、どちらも、楽しくあっと言う間に読めてしまい、それでいて最後には人間の人生をさりげなく考えさせる本でした。主人公は苦労を重ねて商いにもそこそこ成功したご隠居で暖かい家族に囲まれています。読者の多くが求めているであろう、ほのぼのとして活気のある江戸市井の人々の暮らしぶりもあちこちにちりばめられているので、読み物としてとても楽しめます。それでいて、狡猾で俗物の岡っ引きが与平の周りに見え隠れしてスリルもちゃんと用意されているのです。全体がほとんど与平の目線で書かれていますが、6編のオムニバス形式になっているので、忙しい生活の中に持ち込めば、ほっとした優しい一時を持てるかも知れません。(私は家事の隙間時間によく読んでいたので、台所の片隅にいつも置いてました。)聞き屋与平を通して私たち読者も、美醜様々な人間の生き様に立ち会う事になり、その設定がこの物語に色濃く漂うほのぼの感と上手く調和しているように思います。