戦争にくっついて回る最下層の傭兵達。その傭兵達の尻にくっついていくその家族、
あるいは彼らを相手に商売する酒保や娼婦達の集団である“輜重隊”のどん底の生活の中で
偶然出会った「馬の胎から生まれた少年」アディと「ユダヤの名家コーヘン家の末弟」イシュア。
国内諸侯に対する皇帝の権威と求心力の失墜した神聖ローマ帝国の末期
対立するキリスト教の新教徒と旧教徒の宗教戦争が、近隣各国の派兵や干渉を呼び、
国を超えた情報、流通網を持ち戦争自体を金儲けの手段と見なすユダヤ商人の台頭と
傭兵による国内の蹂躙によって国内が泥沼化して疲弊していく30年戦争を舞台に、
本来出会うはずのない二人の少年が、自らの出自に悩みながらも苦境の中で人生を全うする物語。
世界史的にあまり扱われていない30年戦争を、その時代背景と宗教的な歴史を丁寧に描き、
登場人物も実在の人物から架空の人物まで魅力的に彫り下げ、また練り上げられています。
綿密な資料の研究と精細な筆致、骨太なストーリーで読み応えもあり、一気に読めました。
タイトルの“聖餐”とは、イエスの最後の晩餐の逸話を基に信者達が口にするパンとワインの事ですが、
実はその起源はキリスト教以前に遡ると言われ、キリスト教の新教と旧教でも教義が違っています。
もし仮に、広義で聖餐とは神の恩寵とそれによってもたらされる富や食物である、とするならば、
この物語はまさに聖餐とその解釈を巡って、上は皇帝貴族から下は商人傭兵達、さらに賤民まで
あるいは新教徒と旧教徒そしてさらにユダヤ教徒が対立し、入り乱れて争う姿であると言えます。
その中で、登場人物達が自らがどうあるべきか、また、どう生きるべきかを見つめ、
力強く生きようとする姿は現代の私達の心を打つものがあります。
私達もまた聖餐城を探して戦っているのかも知れません。
重厚な装丁に負けぬ、戦場の大地と血の臭いに満ちたヨーロッパ史を基にした傑作です。