亡くなる直前までの3年間、毎週一回の講義(某新聞社系のカルチャー教室)をみっちり聞いた。「この講義は大学院レベルの内容です」と、誤字の混じるレジュメを配りながら、1時間半マグダラのマリア論、マニエリスム論、そしてカラヴァッジョへと高度なレクチャーが続いた。「大学への博士号取得論文を書いているところ」と時々、その一端にも触れた。「聖母がキリスト教布教の上で果たした役割は、日本では観音様が果した」「女はもともと強かった。魔術を持っているから」など、いちいち納得する内容だった。本書は論文とパソコンに残された講義録をベースに編まれた。何事にも力を抜かない人だった。論文執筆中、いきなり書斎から冥界に旅立った先生は、きっといまごろ、赤字直しに没頭しているに違いない。