トレヴァーの描く世界は至極人間臭くていじわるだ。それはとりあえず試しに巻頭の「トリッジ」を読んでみればよくわかる。ここに登場するのは、十三歳のトリッジという少々まぬけな少年だ。彼はおつむが弱いのか、自分が笑い者にされても一緒にヘラヘラ笑っているようなところがある。そんな彼の少年時代のエピソードが語られ読者は彼の半人前以下の寄宿舎生活を追体験する。なんとも情けなくて、でも憎みきれないトリッジ。この短編の前半はそういったユーモアを感じさせる雰囲気の中進行していく。しかし後半にはいって様相は一変する。なんという展開だ。そうきたか。なるほど、トレヴァーってこんな感じなの?こんな具合に、トレヴァーは人間の邪まな部分や不実な部分を好んで描いてゆく。しかし、そこに嫌悪感はない。それらのいわば『負』の部分を強調していても、嫌な感じはないのだ。なぜなら、それが人間なんだという肯定のもと話が構築されているから、読み手としても素直に受け入れてしまうのだ。人間ってこんなもんなんだよ、これが人間の真の姿なんだよと作者がやさしく説いてくれてるような感じだ。
ところで本書の中で一番良かったのが「マティルダのイングランド」。これは短編というより中編ぐらいの分量があったのだが、古き良き時代で幕が上がった物語がラストでは○○○っぽい話になってしまうところが凄い。この展開は、ある意味ミステリにも通じるカタルシスがあった。う〜んトレヴァー凄いぞ。