ミステリを下敷きにした、極上の恋愛小説であると私は感じました。それも、哀しみや苦痛の淵から掬い上げるような愛ではなく、もっと破滅的な愛。深くて暗い処に、どうしようもなく堕ちて行くような愛です。それでも微かな温もりを残す、不思議な読後感をもたせる作品でした。
「ある事件が原因で、理不尽に闇の世界へ転落することになった青年」という、一見すると感情移入しにくそうな山内の激情が、読むたびに身を刺すように伝わってきます。そして、山内を闇の世界へ突き落とす原因の一端を握ったとも云える刑事・麻生の苦悩や懺悔も。壮絶ともいえる愛憎が、ページを繰るたびに溢れ出してくるのです。
私がこの本を手に取った切欠は、某雑誌で「匂い系(BLテイスト)」として紹介されていたからなのですが、とてもそんな生やさしい表現では足りません。もともとBL小説は好んで読んでいましたが、もう愉しんでは読めなくなるかもしれない…とまで感じました。そのくらい、世にあるBLレーベルの小説をはるかに凌駕した、とにかく「極上の恋愛小説」だったのです。
人間の業(ごう)だとか人と人との縁(えにし)だとかを、まざまざと見せ付けられた、という感じです。
愛で救えるか。
贖(あがな)いと赦(ゆる)しは、堕ちていく其の先にあるか。
そして、再生は?
同性愛的な表現が随所に出てきますので、苦手意識のある方や興味のない方は手を出しにくいのかもしれませんが、ぜひ、多くの方に読んで欲しい。その部分だけに捉われてこの本を読まずにいるのは、とても勿体無いような気がするのです。BLというよりは、セクシャリティやジェンダー、愛の在り方に深く切り込んだ作品となっています。ぜひ、お手にとってみて下さい。
もちろん警察小説としてもすごく魅力的で、最後まで飽きさせず一気に読ませる勢いがあります。このあたりは、効果的な改行も手伝っているかな、と思えます。リズムというか臨場感があるので、長編ではありますが難なく読めてしまいます。文庫版をお求めの方は、ぜひ上下セットで。
因みに、同作家さんの緑子シリーズから派生した作品ではありますが、この「聖なる黒夜」からでもまったく問題なく入れます。私は、これを読んだ後に緑子シリーズとハナちゃんシリーズを手にしました。物語(シリーズ)間の、登場人物のリンクも魅力の一つですよ。
何度でも云います。この「極上の恋愛小説」を、ぜひご一読ください。