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おそらく1000億以上在ると思われる脳神経細胞同士が,幾重にもわたって柔軟にグループ化し,変容しつづける。世界(体験),セル・アセンブリ,ニューロンが,相互に作用しあい,変わりつづけ,成長しつづける。
こうした複雑極まりない働きを示す脳だが,受精後18日ごろ,全長1ミリの胎児に脳の原形ができ,9か月までに成人とほぼ同じ外観になるとは驚きとともに感動する。
脳の成長と変容について,損傷と回復力について,頭の良さと脳について,記憶と脳について,脳の個性について,等々,どの記述も興味深く読みやすい。著者のスタンスは実証的で,しかもきわめて柔軟。その柔軟性ゆえか,文体も,柔和でユーモアのある人柄をしのばせるもので,読んで気持がいい。
最後に,文学部の心理学科出身の著者が,脳科学の分野で仕事をしつづけるうえで,励まされたヘッブ博士の言葉の一部を(ほんとうは全部を)紹介したい。「心理学は生理学の一部門とはなりえない。…脳の働きのもっとも重要な面のいくつかは,心理学的方法によてのみ知られるし,また研究することができるのである。神経学的実体は,心理学的実体よりも,なにかより実質的で,より『実在的』だとかんがえられがちのようである。…しかし,それはまったく間違っている。…森は木と同じように実在的であり,驟雨はそれを構成する雨粒と同程度に実体である」。
文章は平易で読み易い上に、専門家の手になる書であるだけあって記述も正確を期しています。ただ一か所だけ推論の間違いではないかと思われる箇所があります。185ページで論じられているロンドンのタクシー運転手の海馬(記憶に関係する脳の一部)が一般人の平均よりも大きいという話の部分です。タクシー運転手は、広い空間内の詳細な情報を頻繁に記憶し処理しているので、その様な空間の記憶が海馬の発達を促した結果、海馬が一般人よりもよく発達したと、著者は考えます。しかし、これは必ずしもそうは言えないのでは無いかと思います。もしかしたら、もともと海馬が発達して空間記憶の優れた人がタクシー運転手に向いており、そうでない人はたとえタクシー運転手になったとしても自分は空間記憶が悪いと言うことに気付き、早々に運転手をやめてしまったからかもしれません。実際には、タクシー運転手になる前とタクシー運転手として熟練してからの海馬の大きさを比較するべきでしょう。
本書を読み終えて「脳は、状況に応じて変化を繰り返しながら次々と仕事をこなしていく、極めて柔軟でダイナミックは情報処理装置なのです」と言う著者の主張がしっかりと心に刻み込まれました。脳に興味のある人すべてにお勧めします。
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