この本の中で小林秀雄が深い共感をもって取り上げている近世の学者の思想が、いかに「学問」への強い憧れによって支えられているか。そして、それを語る小林の文章に、真にあるべき学問の姿への希求がどれほど満ちていることか。それを読む我々の中にも、「学び」への憧れが湧きあがってくる。学問をする喜びと倫理とが一致した江戸学問の雄たちへのオマージュとして、これ以上のものはない。日本にこういう人々がいたということを知るだけでも、敬愛の念に支えられて、心が豊かになったような気がする。もちろん、小林のこの期の文体は円熟した見事なものである。
登場する中江藤樹も熊沢蕃山も仁斎も徂徠も、官製の学問ではなく、天地にひとりで生きてある己と一体となりうる「学問」を追求した。このわが国の思想の流れは宣長を経て、福沢諭吉にまでつながるものだ。小林による「学問のすすめ」として、強く推薦したいと思う。