日本という国は良きにつけ悪しきにつけ「村社会」である。「常に他人と同じでなければ安心できない」といった環境があり、ここに身を置くことによってすべては「良し」とされてきた。ところが、世界へ出てみるとそこにはまったく異なった世界があり、自らの生き方は自らが決めるといった考え方が主流である。
近年、海外における「ロング・スティ」という言葉が独り歩きして、メディアではその一部分だけを取り上げ、東南アジア諸国における海外暮らしはさもバラ色の如く紹介されてきた。ところがである。例えば日本人に人気上昇中のチェンマイの長期滞在者の実態をご存知であろうか? 最初は異国の珍しさもあってそれなりに楽しい生活を享受できる。しかし現地意識のない人々は時が経つにつれ、そのほとんどが現地の日本人社会に埋没して、日本に居るのと何等変わらぬ生活を送っている。
長い社会人生活を乗り越えて、海を渡る高齢者の本音は何処にあるのだろう。本書では日本文化の中ではタブー視されてきた命題に対し、第二の人生を現地の女性とともに生きるといった選択肢を示しているが、これは何も高齢者に限らず、すべての男性諸氏にも言える問題であろう。日泰両国の文化の違いを明確にした上で同国の本質を捉え、タイ各地に渡った高齢者男性の本音や夢、更に挫折の日々を丹念な取材で正面からすくい上げた見事なルポである。
「日本の常識は世界の非常識」という言葉がある。新たな人生を求めるのであれば、自身を「村社会」の束縛から解き放ち、自らの責任と意志で拓いてゆくものも方法だ。海外への長期滞在はそれ自体がひとつの冒険であろうが、人それぞれの夢に対する渡航先の現実を知ると知らないのでは大違いである。類書とはまったく異なる労作であり、外国における長期滞在の問題を含め、人生や老後をどう生きるかというひとつの選択肢を示す指南書としても読める。今日のタイを知る者として、同国を目指すすべての男性諸氏に一読をお薦めしたい。