明治政府のとった「翻訳主義」を巡る問答集。
本書の生まれた経緯が面白い。『日本近代思想大系』(1988〜1992年 岩波書店)中の1冊、『翻訳の思想』(加藤周一・丸山真男(編) 1991年 岩波書店)の編集過程において、体調を崩した丸山が解説の執筆を加藤に一任、加藤は丸山の体調の良いときを見計らって、自らの考えを丸山にぶつけてみる機会をもったのだそうだ。数回に渡るそうした会合の内容を録音したテープの中から、「翻訳」に関連する部分を抜き出したものが本書。
教養ある2人による、純粋に知的な関心に基づいて行われる知の交流の様子は実に面白い。本当に楽しそうに伸び伸びと語り合っている。「時代背景」「どんな本を翻訳したのか」「訳語の問題」「その後の日本社会に与えた影響」といった大まかテーマはあるが、2人の興味の赴くままに語り合っているためか、何か結論めいたものが導き出されるわけではない。私としてはむしろ、何とか話の流れに乗り遅れないようにして、2人の興味関心のほとばしりそのものを楽しむようにして本書を読んだ。
本書によると、明治初期には既に「どれを読めばいいのかわからない」というほど大量の本が翻訳されていたのだそうだ。2人が驚くのは、どう考えても「すぐ役立つ実用的な本」とは考えられないような本までもが大量に翻訳されていること。明治の知識人は、ヨーロッパ文明を相当深いところから「日本語で」学んだらしい。