ただし、この見方も当たっている部分がないわけではない。ウェーバーの本にも、政治が現実的な力学の所産だという大切な前提があるし、本書にしても第4章「翻訳の市場」以降では、翻訳家をめぐる現実環境の分析と、かなり詳細な職業情報とが紹介されているからである。
しかし、ウェーバーが政治はあくまで政治であり、倫理ではないからこそかえって政治家特有の実益を超えた倫理が必要なのだと主張したように、翻訳の第一線で活躍中の著者もまた、翻訳家の実務環境をたどったうえで、自身のなりわいに職業的な倫理のやすりをかけようとしたように見える。
では、その職業倫理とは何か。本書に倣って強引に要約すれば、それは、「訳文に対する“結果責任”をまっとうすること」なのではあるまいか。実例を交えた翻訳の考察、歴史上の翻訳者たちの足跡紹介、翻訳技術論…。本書を貫く記述のすべてが、この基本の延長線上にあると思えるのだ。
翻訳家を志す人、翻訳とその文化的背景に興味をもつ人、本書はそんな人にすすめたい、今どき貴重な真の参考書である。(今野哲男)
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59 人中、54人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
翻訳家をめざすあなたに、薬得(毒?)の書,
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レビュー対象商品: 翻訳とは何か―職業としての翻訳 (単行本)
「目次」にあるように全六章の前半は、「翻訳とは・・」から「・・の技術」と、ほかの「翻訳もの」と似た課題を記述している。だが、後半部は翻訳業界、翻訳者、翻訳学校、そして翻訳家をめざす学習者などについて、具体例と数字をあげて状況を説明しており、翻訳を職業の選択肢の一つとして考えている人は必読の書。もし、あなたが翻訳家になりたいと思っているなら、ぜひ、この後半部を読むべきです。読んだら、あきらめるか、腹をくくって修行に没頭するか、どちらにしても薬得十分のクスリになります。 例えば、現在翻訳予備軍は十万人。一方、生活を支えられる出版翻訳者はせいぜい数十人という現状。しかもその人たちは、ほとんどが最初は翻訳者になるつもりではなかった、という。
14 人中、10人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
翻訳家にあこがれる人は読むべからず,
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レビュー対象商品: 翻訳とは何か―職業としての翻訳 (単行本)
英語が好き、英語の成績がよかった、専業主婦だけれど翻訳家として社会と接点をもちたい、翻訳学校に行って自分磨きをしたい……。そういう人は絶対に読んではいけません。 まして、翻訳業とは何ぞや?という興味で読む本でもありません。 七転八倒して、一冊でも翻訳をしたことのある人、あるいは、もしかしたら翻訳業で生計を立てていくことになるかもしれない人(作家になれない、学者になれない、舞台俳優になれない、、、いろいろな諦観をもっている人)、そういう人にとっては、翻訳を生業とするとはどういうことなのか、この一冊を読めば充分でしょう。バイブルとなること、間違いありません。 個人的にもっとも心に響いたのは以下のくだりです。 「原文の表面だけを手掛かりに、表の意味はもちろん、裏の意味、裏の裏の意味まで読み取れるようになる。原文のリズムや細かいニュアンスを……略……ひとりの著者の原文をつぎつぎに翻訳していけば、原著者の微妙な心理の動きや思考の流れを理解できたと思えるようになる……略……原著者になりきって、原著者が日本語で書くとすればこう書くだろうと思える訳文が流れるように自然にでてくるようになることがある」 この感覚に覚えのない読者には、本書の価値はわからないだろうと思いました。 抑えた調子のなかに、熱い思いの込められた、真の翻訳家のためのバイブルです。
23 人中、16人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
翻訳を志すもの、必読の書,
By Bluejay "BJ" (Yokohama &Otsu, Japan) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 翻訳とは何か―職業としての翻訳 (単行本)
翻訳を志すもの、また、翻訳に既に従事しているものにとっても必読の書です。翻訳市場や、技術、歴史、辞書、翻訳者、その予備軍などについて様々述べていますが、その根底にある考え方は一本です。「翻訳とは執筆」です。筆者の言うように、翻訳は他言語を日本語に置き換える作業そのものではなく(この作業も重要な役割を持っているのですが)、著者の意図を著者が想定している読者に如何に効率的に届けるかという作業だと思います。筆者の専門と異なる産業翻訳にも同じようなことを強く感じます。「裏の裏のまた裏」を読み取り、村田蔵六が蘭書の内容を具体的にイメージしたように「著す」ことが翻訳だと思います。 明快な筆舌ですが、少し書く姿勢に癖があると感じるかもしれません。それでも、翻訳について様々な観点から論じたこの本は、翻訳を真剣に志す人には、色々なことを深く考える手がかりを与えてくれる本だと思います。
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