「天山の巫女ソニン」シリーズでデビューした菅野雪虫氏の第2作ですね。「カドカワ銀のさじシリーズ」の為の読み切り書き下ろし作品です。
ソニンシリーズは一見中国か東南アジア風のエキゾチックな世界が舞台でしたが、今度は日本の古代(九世紀頃)の東北でのお話。書名にある「羽州」は現在の東北の日本海側で、太平洋側は「奥州(陸奥の国)」らしく、大和朝廷の支配下での「辺境」における人々の生活が表紙同様の柔らかい感触で描かれていきます。
前半は、春を告げる花「梅」から名付けられた主人公ムメと、都から来た少年春名丸の出会い、家族共々の温かい交流と別れの様子が。後半は、歴史上の事件「元慶の乱」に取材し、過酷な税の取り立てと飢饉の故に蜂起した人々の戦いと平和の到来まで・・・というストーリー。
当然のことながら無意識のうちにソニンの物語と較べてしまうわけですが、読み切りだけにスケールの大きさは無く、春の曙・・・とでも言うようなホンワカムードが感じられます。最初のうちはその点が気になりますが、後半の戦いを経て平和へ・・・という部分ではさすがに引き締まった展開になり引き込まれます。
主人公ムメや春名丸、不器用な生き方しかできない少年カラスという三人の間の素朴な友情、周囲の大人達の暖かな眼差し、飢饉に続く蜂起と混乱、捨て身で危険に立ち向かうムメたちの大胆さ・・・・ソニン同様に細やかな心理描写や、意外な仕掛け、そして情感豊かな結びの展開も健在で読ませます。
私にとっては近年における「事件」とでも言えるような素晴らしいデビュー作、それに続く第2作ですから色々と難しい面もあったかと思いますが、定評有るシリーズの1巻としての出版は上々の出来と言えます。、伸びやかな村娘ムメと人々の波乱の日々を描いた本作は、この国の長い歴史が支配する者とされる者の関係の歴史でもあったことを実感させてくれると共に、ほのかな梅の香りのような温もりも伝えてくれて楽しめました。