これは読者を選ぶ作品だと思います。
まず、深海艇による海底探索、自衛隊や米国海軍の艦船や航空機の描写ディテール、海洋資源開発に関する知識など、海洋ハードSFとしての見どころは満載といったところで、プラス評価。
ですが、ストーリーがやや中途半端な気がします。最新鋭の海軍力をもってしてもかなわない「未確認敵性遊泳体」、ああこの先どうなるんだろうという不安を残して、物語は突然、この異様な生物の発祥の謎に関する長い解説を行う記者会見に突入、何だかハッピーなエンディングを迎えていく。ハードSFとして、科学的なつじつま合わせは合格点と言えるこうした展開は、物語としてはどうも消化不良な感じを抱かせます。
この物足りなさは、反省してみると、各登場人物の描き方に原因があるのではないかと思い至りました。それぞれが与えられた役割をこなしているだけのような感があります。主人公の俊機のトラウマにせよ、ヒロインのこなみが大好きな海に裏切られたと落ち込むところも、もう少し深く掘り下げてほしかった。
こなみと俊機は始めから恋人であるという設定もまた、ドラマの盛り上がりをそぐ結果になったのかもしれません。この二人のロマンスをもっと丁寧に描いてほしかったと思います。全体に登場人物に感情移入しづらいというのが正直な感想です。
つまり、この物語の主役はあくまで海洋開発の未来に関する科学的知識の展開にあって、自然の脅威の前に圧倒される人間を深く描くということにはあまり成功していない気がします。ハッピーエンドで終わるのが、その証拠であるともいえるでしょう。もちろん、この辺りは好みによるのかもしれませんが。
この新装版のカバーはラノベ風ですが、ヒロインのこなみは23歳、主人公の俊機は28歳という大人の設定です。最長2週間潜航可能な深海艇の中で二人が愛し合う描写が二度あるので、ジュブナイルSFとも言い難いので、その点もご注意ください。