物語中の、家族内で交錯する、憎悪そのものは壮絶だ。
その方向と程度は、各人で様々ではあるが、それを維持するエネルギーも凄まじい。
ただ、この家族が極めて特殊なケースかと言えば、必ずしもそうではない。
この場合、環境が、精神病的症状を造り出しているとも言える。
現実に、私は、職業上の専門性により、似た家族のケースをいくつも知っている。
しかし、医師にも、臨床心理カウンセラーにも、精神科医療関係者にも、力の及ぶ範囲に限界がある。
この物語では、極端に厳格な母親の態度や思考回路に、大きな問題があるのは明白だ。
心理学では、両親のいずれかが極度に厳格である場合、その子供が成熟する過程で、
社会適応上の柔軟性が低下する場合がある、という考え方もある。
まさに、さとるがそれに相当すると思う。
精神科医療は、この様な現実を目の当たりにしても、治療を求められなければ、動く事が出来ない。
この物語の場合、まず母親に何らかのアプローチを行う必要があるが、まさか治療を求めてくる事は無いだろう。
現実には、熟練した臨床心理カウンセラーにより、家族ぐるみでのカウンセリングも行われており、成果が上がっている。
さとるや、父親にのみアプローチしても不十分なのだ。
おそらく、ある程度類似した境遇の方も、おられると思う。
多くの困難は伴うものの、対策は早い方が良く、この物語の様になってしまってからでは遅い。