群集心理学の祖であるルボンは、フランス革命後のヨーロッパで、君主の発言や政治的伝統の実質的意義がますます低下し、非理性的で破壊的な群衆の勢力が優勢になってしまったことに恐怖をおぼえました。しかしルボンがこの大きな問題を解決するために案出した方法は、群衆そのものを変革することではなく、群衆を統治する指導者に対して、どうすれば群衆に暗示をかけ、その心理を操作することができるかを教えることでした。群衆を操作する手段としてルボンは断言・反復・感染の三つを挙げました。もし指導者が十分な威厳と手腕を備えているならば、群衆は彼のもとに従い、問題などまったく発生しないだろうというのがルボンの主張でした。
けれどもルボンは、指導者による群衆の操作方法に関しては正確な分析をしたものの、その指導者が分別をわきまえた偉大な人物であるとはかぎらず、無能だったりただのデマゴーグにすぎなかったりするかもしれないという重大な危険性に関しては何にも考えていなかったのです。そのためにヒトラー、ムッソリーニという大犯罪者によって、ルボンによる群衆の操作方法が実践に移される結果になってしまったのでした。
(というか実は老年のルボンはムッソリーニのファシズムに心酔しきっており、彼自身が野蛮な群衆の一員になってしまっていた。しかもこの本の内容自体かなり反復が多く、露骨な人種差別論さえ展開してくるので、すべてを鵜呑みにしないよう警戒しながら読むことが必要)