本書はリー群の表現論への非常にユニークな入門書である。この理論に関する抽象的な一般論を避け、具体的な計算によって理論を構築し、古典群と例外群(G2とF4)の複素表現環が見事に決定されている。
前半の三つの章は主題への準備である。コンパクトな連結リー群Gの表現がその指標によって決定される事から、Gの極大トーラスTとワイル群を考察する必然性が(コンパクトリー群の構造論からではなく)表現論の観点から理解できる所が素晴らしい。包含写像j : T→Gから表現環の間の単射準同型j* : R(G)→R(T)が誘導され 、その像がワイル群の作用で不変であるという事実を理解する事が肝要である。本書の後半に現れるリー群の表現環R(G)は、全てこの枠組みの中で決定されている。
第4章ではA、B、C、D型の古典群の各々に対し、極大トーラスとワイル群が求められ、それに基づき表現環の生成元が決定されている。また、古典群Gのリー環gがGの随伴表現Ad (Ad(y)X=yXy-1)によりG-R-加群となり、その微分表現d(Ad)がad (ad(X)Y=[X,Y])であり、極大トーラスのリー環がgのカルタン部分環に対応する事から、リー環gの複素化への極大トーラスの作用にroot系が現れるという事情(本書143頁の脚注)も理解できると思う。複素半単純リー環のroot分解がこの文脈に現れることに注目すべきだろう。
最終第5章は少し難しくなるが、本書のハイライトである。F4の複素表現環の決定の解説は素晴らしく、他書で解説される事が殆どない例外群G2、F4と3対原理、更にそれらから導かれる等質空間の解説が有益でとても面白い。姉妹書である『群と位相』(p.250)に記述されたF4の部分群列と関係する等質空間の詳しい解説が本書の大きな魅力でもある。
初読の際に抱いた二つの疑問は、本書で定義されるG2やF4のリー環がリーの対応理論のリー環なのか、また古典群などの複素表現環が分かって何か良い事があるのか、という事だった。最初の疑問は、各々の群の積(Cayley代数の積、例外Jordan代数のJordan積)に対し、それらが微分作用素になっている事に気付けば氷解するだろう。第二の疑問に完全に答えるのは私には難しいが、表現環の理論とK理論との間の深い関係が部分的な解答になるのではないかと思う。Husemollerの『Fibre Bundles』(GTM20)のPart 2にトポロジーへの応用を含めて詳述されているので、興味ある方は参照されると良いだろう。
『群と位相』と本書は、横田先生ならではのユニークな良書であり、数学を愛好する全ての方にお薦めできる。更に、例外リー群の具体的構成をテーマとする『例外型単純リー群』という他に類を見ない素晴らしい書もあるので、必要な知識を補充しつつ挑戦されると面白いと思う。