筆者の森啓氏は、日本コロムビアで美空ひばりのレコーディングの担当ディレクターとして活躍し、1986年からはひばりプロダクションに出向し、ひばりの晩年の姿をすぐそばでずっと見守っていた人ですので、知られざるひばりの実像というものが伝わってきました。
出向‐ひばりさんと私、緊急入院‐歌手生命の危機、『みだれ髪』のレコーディング‐療養中にも進化した歌唱力、東京ドーム公演‐蘇ったライブ・ステージ、エピローグ、という章のタイトルを眺めるだけで本書の内容が大体理解できるかと思われます。
エピローグに書かれているように、「川の流れのように」の大ヒットを知ることもなく、という記述は胸が痛みます。不世出の歌手の晩年、残り火のような思いの中で残した曲ですから、この世からいなくなっても、気持ちはずっと歌とともにあったのでしょう。
そして、幻になったひばり版「サマー・タイム」のお話も残念に思いました。若いころから、スタンダード・ジャズを歌わせても素晴らしい歌唱の持ち主だけに、この企画の実現がならなかったのはファンとしてとても残念です。
昭和歌謡史の歩みとともに歌謡界の女王として君臨し続けてきた美空ひばりの知られざる晩年の姿や貴重なエピソードを知る上で、有用な本だと言えましょう。