プレステ登場前夜から、久夛良木氏退任までの15年間の軌跡を筆者の取材メモと関係者へのインタビューを元にまとめたドキュメンタリーだ。本書の6割強は、プレステ2までの内容のため、これまでゲーム業界や、エレクトロニクス業界に詳しい人には既知の内容だろう。このあたりまでの詳しい経緯を知りたい場合には、過去に発売されたプレステ本を読んだ方が詳しい内容に触れられる。「今だから話せる」といった内容も基本的にないからだ。一方、本書で目新しいのは残りの4割弱の部分。久夛良木氏がソニー副社長に昇格し、PSXで(世間的にいえば)失敗。そして、PSPを投入し、プレステ3を開発。その劣勢の中、久夛良木氏が退任に関するまでの内幕で、この部分が目新しい内容と言える。ページ数はそれなりだが、非常に読みやすい章構成と文体で、この手のドキュメンタリーが好きな人なら、休日半日で一気に読み切ってしまうことができる。
本書のタイトルは「美学vs実利」で、巻頭にも美学こそプレステを表す言葉であり、実利とは任天堂の戦略を表すものだとでてくるが、実際には本書を通じて任天堂の話は、数ページほどしかない印象だ。その点だけは残念ではあるが、任天堂に関して、本書におけるSCEの内幕ほど取材を進めるのは決して容易ではないだろう。しかし、今 NINTENDO DSとWiiで絶好調の任天堂も、NINTENDO64とGameCubeでは辛酸を舐めており、そこには本書にも勝るドラマがあったはず。そちらもぜひ明らかにし、商品開発に携わる者の糧とさせてほしいものだ。
今も様々な企業で、商品開発や、サービス開発が行われており、その現場の担当者は、厳しい締め切りとストレスにさらされているだろうが、そんな時に本書を読むと、もう一頑張りできてしまう、力があるとも思う。