この著者の前二著作『名画の言い分 数百年の時を超えて、今、解き明かされる「秘められたメッセージ」』と『巨匠たちの迷宮-名画の言い分』に大変感銘を受け、昨2010年11月に出版されたこの書も手にした次第です。
またしても私の期待を裏切らない、平易かつ明快に西洋美術鑑賞のヒントを与えてくれる良書であった。それが私の率直な感想です。
今回は古代ローマ時代から20世紀のポップアートまでの西洋肖像画十余作品を取り上げ、それぞれの絵画が生まれるに至る時代背景や被写体である人物の波乱に富んだ生涯などを、美しい図版とともに紹介してくれています。
殊にキリスト教の変遷史に沿って肖像画の描き方が大きく変わっていったさまを分かりやすく解説していて、大変興味深く読みました。
西暦380年にキリスト教がローマ帝国の国教となったのを境に、異教徒の偶像崇拝が禁じられたこと。
キリスト教では人間は神より劣り、肉体は魂・精神よりも劣ると考えられたため、ローマ風の写実的な表現が中世キリスト教美術では否定されたこと。
そのためルネサンス時代に古代芸術が再び息を吹き返すまで中世期には肖像表現が暗黒時代に引きずり込まれたこと。
正面を向いた肖像画はキリストにのみ許されていたものが、宗教改革後は偶像崇拝を禁じるプロテスタントの被写体で見られるようになったこと。
北方ネーデルランドの影響下では人物を暗い背景に置く描写が広がったこと。
などなど、今後西洋の肖像画を眺める際には頭の引き出しから取りだしてみたい鑑賞の手引きに満ちています。
*「綺羅星のごとく」という表現に「きらぼし」とルビがふられています。この表現は大辞林を引くと「『綺羅(きら)、星(ほし)の如し』という言い方から、誤ってできた語」とあります。