帯にもあるこの言葉に代表されるテーマは、ワイルダー『わが町』をはじめ、多くの小説や漫画で扱われてきました。
日常の中にある幸せ、ありふれた日々の貴重さ、家族や友人に囲まれた毎日……このようなことを謳った作品をどこかで見かけた人は少なくないでしょう。
そういった意味で、このテーマ自体がもはや「ありふれた」ものなのかもしれません。
ただ、『美咲ヶ丘ite 』における平凡な日常は、他の作品に決して劣らぬほどにやさしく描かれており、
戸田誠二さんの市井の人々を眺める視線のあたたかみを感じます。
平凡で無名な人たち、特別の才能はないけれども、何にも勝る能力――日々の中に幸せを感じることができる能力――を持った人たちが織りなすドラマは、
地味この上なく、劇的な展開ともミステリーとも無縁です。その点を指して、この本に何ら面白さを見出せないと仰る読者もきっといるでしょう。
けれど、「平凡」や「日常」に価値や憧れを感じる方、しあわせな人たちのストーリーを覗いてみたい、という方の胸にはきっと得がたい「何か」を残すはずです。
これまで『生きるススメ』『ストーリー』などで、辛く、痛いものを多く描いてきたこの人だからこそ、このような光あふれた漫画を描けたのだと思います。
となると、日常の幸せに気づくのには、思いもつかないほどの悲しみや挫折を必要とするのかもしれません。
この本から作者を知った人はぜひ、他の作品にも手を伸ばしてください。