これは明らかに反語だが、おそらく一部のフェミニストを皮肉ったものだろう。世間一般では「男たるものみな美人好き」で通るのである。それでいいのだ。美人は得だから、せめて薄命であってもらいたい、というのも美人を羨む普通の女たちのせつないバランス感覚だ。本書はそういう凡夫凡婦が読む本である。私は他人様の美人論にはまったく興味はない。小谷野氏が言うように、誰もが認める美貌の持ち主もいれば、ひとによって美人かどうか意見の分かれる場合もある。その分れる場合をあれこれ議論しても、さして意味はない。ただ、今はちょっと愛嬌のある顔立ちの小娘さえ、のべつ「美人」「美女」と誉めそやす風潮があるのは、嘆かわしい。「カリスマ」だの「達人」だのと同じように、「美人」の語も濫用によって価値がだいぶ下落したようだ。本書は「美人」をめぐるエッセイだが、小谷野氏の相変わらずの博覧強記ぶりにはほとほと感服する。御多聞にもれず、いろいろな情報が満載である。私が今回読んで心底得したと思ったのは、森本草介の裸婦画を教えてもらったことと、諏訪根自子の写真である。どちらもゾクゾクするほど素晴らしい!こういう発見はじつにありがたい。
(本書の価値を聊かもきずつけるものではないが、210頁の元明女帝は文武(軽皇子)のあとに即位しているので、「軽皇子成長までの中継ぎ」ではない。元正と同じく、首皇子成長までの中継ぎである。軽皇子成長までの中継ぎは祖母の持統。すでに小谷野氏もお気付きかも知れないが、念のために)