キネマ旬報ベストワンということで、確かに素晴らしい映画だと思いますが、戦争体験の無い私には、牧瀬里穂演じる奔放な陽気さの中に、戦地に向かう恋人への哀しさを押し込める女性。石田えり演じる兵隊と関係をもつ戦争未亡人(後に夫は生きているらしいことが分かる)等のエピソードの持つ戦争の悲惨さ、反戦についてはあんまり響かなかった。
むしろ、戦争から落ちこぼれてしまった人たちの痛み。思春期の少年特有の不安定さに惹かれた。康夫は虚弱な体を理由に、仲間たちの通う軍需工場から外されて療養生活を送っているし、康夫が住む祖父母の屋敷でお手伝いさんとして勤めているはる(中島ひろ子)が嫁ぐ、足を負傷して戦地から帰ってきた義足の男、秀行(坊主頭の寺島進がまたイイんだな、泣かせる)の存在もまた象徴的だね。『戦争からの落ちこぼれ』を描く。そういう意味では、確かに反戦映画ではあります。
緑まぶしい霧島。遠くにはなだらかな山の稜線が美しく広がる。そこを横切る戦闘機が、トンボか鳥の群れかと錯覚するほど。そして、主人公の暮らす祖父母宅のたたずまい。まわりの田園風景。そこで暮らしている人々の服装。貧しい戦争未亡人宅に入り浸る兵隊(香川照之)が、ふんどしで汗をぬぐう仕草などの細々とした描写。そして、判りづらいほどに完璧(?)な宮崎訛りが切なく、美しい。こうした描写が、登場人物たちのリアリティを生み出している。そして、ときおり画面に現れる蝶は、康夫のふわふわとした心、穴のなかで見る標本は、悲壮感、不条理さを象徴しているのだろう...。
康夫を演じた柄本佑は柄本明の息子だそうです。矛盾しているようだけど、ぼんやりとした存在として存在感がある。康夫が密かに思いを寄せる(?)なつ(小田エリカ)もいい。他の出演者たちも皆が皆個性的で印象的。たしかに映像と演出とあいまって、名作の誉れを受けていい映画です。