羊の歌は、知の巨人と名高い加藤周一氏の名著です。本書は、氏が生まれてから医学部医局員時代までの自伝で、おもに自分の青春時代と太平洋戦争の世間のなりゆきが同時進行で書かれています。加藤氏は独特の視点をお持ちのようで、自分自身をちょっと上から俯瞰するような眼でみつめていたようです。そのことは本書を読むとよくわかるかと思います。医局員時代以後は、続・羊の歌に続きます。
私は、本書を内容や文章も高度でかなりむずかしいのだろうなと、最初は読むのをためらっていました。しかしながら、数ページ読んだところ、教養を積んだ人はこういう文章を書くのかと、とてもわかりやすい文章に感銘をうけました。学生時代やもっと若いときに読んでおくべきだったと後悔しております。わかりやすいといっても知の巨人が書かれた文章ですから、そのわかりやすい文章のなかに縦横無尽に何層ものことがらが記述されているのだと思います。文章の締めは、おだやかな潮の満ち引きのような優雅さを感じました。一般的に、高名な学識者が書かれた文章は、内容が難解で引用も多く、いったい何を論じているのかがさっぱりわからないと途中で投げ出すこともありますが、本書は一気に最後まで読み通す内容の豊富さと文章の技巧があります。ぜひ、高校生などに読んでもらって文章を参考にしてほしいと思います。
50版増版と桁違いの名著ですが、書体が旧字体でかなり小さく、また昭和40年代以後教育を受けた私の見たこともない漢字が数多く出てきて、なんども漢和辞典で調べました。それらは常用漢字として現在流通している書籍内ではみることがありません。これだけわかりやすい文章なのに、そのことだけが非常にもったいないと感じました。出版元望むことは、高校生などにも読めるようにむずかしい漢字にはルビをふって、活字も大きく今の読みやすい書体に改版してほしいと思います。将来の世代も加藤周一氏のすばらしい文章を読み続けために。