レビューのタイトルで書いた通り、この作品は太田牛一による『信長公記』をどこまでも忠実にコミック化したものである。
作品タイトルには「桶狭間合戦の真実」とあるが、上記のように一つの史料の再現に過ぎず、「合戦の真実」に迫ろうという意図は見られない。
作者の江川氏はこれまでも『源氏物語』『坊ちゃん』『戦国里美八犬伝』などにおいて作品を忠実にコミック化するということをして来た。良く言えば忠実であるが、悪く言えば割愛や要約が出来ない作家とも言える。
ほとんど要約ということが出来ないから、ひどく文字説明が多く、作画の力量があるにもかかわらず漫画というよりも絵物語という趣のものになってしまうことが少なくない。そのため『源氏物語』のように中途で終わるものが少なくない。原作のない『日露戦争物語』などにしても本題に入る前に挫折した形である。
本作にしても要約ではなく、細部にまで忠実に書き込んでいるので『信長公記』の桶狭間の項を手軽に知るには好都合といえるかも知れない。
しかし、他の史料との比較研究や最近の研究の参照などがほとんど見られず、独自の史観を提示するには至っていない。
一方に宮下英樹氏の『センゴク外伝 桶狭間戦記』のような独自性の高い野心作があり、その他にもかわのいちろう氏の『信長戦記』第一巻でも桶狭間に関して独自の見解が述べられている。
こういう野心作と比較すると本作は「真実」「真相」に迫ろうという迫力はなく「桶狭間合戦の真実」というタイトルはふさわしくないと思われる。