現時点で著者は信長関係の中公新書を5冊上梓している。私は本書を最後に読んだが、尾張国内の骨肉の争いから本能寺の変まで、信長公記の記述をベースにしつつ、不足の点は他の良質の資料や怪しい資料でも合理的な推理を加えて、合戦にあけくれた信長の生涯を捉えた本書を真っ先に読むべきだったと思う。「信長の天下所司代」以外は本書のヴァリエーションと言ってよく、各々焦点を合わせているポイントは異なるが、本書との重複が多い。
その他良い点は、信長・部下の各地の合戦が網羅されていること。信長公記をベースにしているので、桶狭間の戦いで信長は奇襲戦法をとったとか、長篠の戦いで鉄砲の三段撃ちがあったという「通説」を採らないこと。本能寺の変も黒幕説を一蹴している。これらには私も賛同する。最後に合戦から窺える信長の戦略・戦術、そして秀吉・家康は信長の何を学び、どういう風に超克したかをまとめているのが好ましい。
惜しいのは、紙幅の都合で、桶狭間や長篠の戦い等、超重要な合戦の説明も他の合戦と同様に扱われ、詳細な地図もなく、記載が物足りない。藤本正行氏の「信長の戦争」の併読を薦める。