本書は、アイルランド出身で
短編小説を中心に活躍してきた著者による
ホロコーストを題材にした長編小説。
収容所を管理する将校の息子と
収容所に収容されたユダヤ人の少年―
彼らはフェンス越しに友情を育みますが
その先には、大きな悲劇が待ち受けています。
厳格ではあるが家族を深く愛し、
よき官僚であるがゆえに大虐殺を指揮する父
ことあるごとに主人公を馬鹿にする姉
父が軍人になったことを誇らしく思う祖父と快く思わない祖母
そして、ある秘密を持った父の部下
―など、それぞれ複雑な内面をもった登場人物たちはとても魅力的で
読後、本書では描かれない「その後」を想像してしまいました。
また、物語は純粋な少年の目から語られるので
複雑な事情や固有名詞、具体的な状況は示されませんが
その分、読者は「1940年6月」、「総統閣下」、「見解の相違」
などの語を手がかりに、登場人物たちを取り巻く環境を
より主体的に想像することになります。
個人的に印象深かったのが
本書を締めくくる
「これは遠い昔に起こったことで、その後、おなじようなことはけっして起こっていない。
この時代、いま現在では。」という一文。
もし、いつかこうした「時代」が来たら
それは本当に幸せなことだし、絶対に来てほしいと強く思いました。
歴史書などでは汲み取られない人々の内面と悲劇の重さを
作家の想像力が見事に照らし出す本作。
自分たちも、加害者にも被害者にもなりうる話として
ぜひ多くの方に読んでいただければと思います。