著者は20年、緒形拳に寄り添うようにして話を聞き取り、一冊に仕上げている。急いでインタビューしたものとは違ってインタビュアー―インタビュイーの信頼感があるのはさすがです。
原点としての「新国劇」への注目も正鵠を射ています。ゲスでない、独特の品のある大衆路線は緒形を際立てるものでした。
問題は二つ。ひとつは、宗教や思想というものへの掘り下げ方が浅いこと。熱心な大日本獅子吼会の信者だったことは、死後にクローズアップされたのであり、なおかつ本人もみだりにかたらなかったから無理はないのですが、『復讐するは我にあり』の裏側から照射したカトリック信者(榎津)や、やはり熱心な日蓮信者である北斎(『北斎漫画』)などの造形に無関係とは思えません。さらに、浅沼委員長刺殺事件での周囲への違和感は、貴重なエピソードですが、『ケイトンズヴィル事件の九人』でのベトナム戦争反対、『出雲の阿国』での労働と芸術の関係如何という有吉佐和子独自の問いかけの問題など、もっと話を聞いておいてほしかった。もうひとつは、テレビについて以外と総括的にしか扱えないこと。これは本数が厖大なわりに、ビデオが残ってないという資料的制約もありますが、巻末の出演リストから、ブラジル移民70年記念の日本テレビ「希望の大地」が抜けていたりする。ぜひ、増補版では補って欲しいところです。