「ラテンアメリカ文学ブーム」という言葉が聞かれなくなって久しい昨今ですが、昨年のノーベル文学賞を受賞した、本書の作者であるリョサをはじめ、結構細々とその翻訳が続けられていたりもします。熱心な翻訳小説の読者はせいぜい数千人という自嘲的な話を当の翻訳家の著作で読んだ記憶がありつつも、まぁラテンに限らずもうすこし人々の耳目を集めて良質な外国文学作品が廉価で読めるようになったらと願わずにはいられない今日この頃です。さて、そのリョサの初期の代表作に目される「緑の家」ですが、ノーベル文学賞の受賞を予知された慧眼な編集者でもおられたのか、新潮文庫で長らく品切れだった本書が昨年八月唐突に、岩波から文庫で再発されました。遅ればせながら年末年始の読書にと昨年末その上下二冊の岩波版を購入したのですが、まずは以前読んだ新潮文庫を本棚の奥から出してきての再読です。本書は「緑の家」と呼ばれる娼家を舞台に展開される「複雑」な物語、などと記してしまうと、なにも説明してないに等しいといってもよいくらい時間と空間、そして人間関係を入り組ませて編まれた物語で、なにしろその「緑の家」という家自体が気づくとふたつ登場していたり、小段落を設けずに時空間をない交ぜに描いていたりするので、登場人物の名前の覚えにくさとあいまって、混乱をきたすこと請け合いです。ただ、その混濁した雰囲気が、いわゆる「ジャングル」的な魅力を有していることもまた確かで、あらすじをここで説明することはしませんが、大ざっぱに言って五つの物語が登場人物や場所などを重ね合わせながら平行して進み、ラストで一気に「緑の家」に収斂していく構成なので、読み始めてしばらくは色分けした附箋でその展開を視覚的に把握しておくことをお勧めします。また、B4くらいの紙を用意して物語ごとの登場人物をグループ分けしておくのも非常に有用だと思います。あとはあせらず諦めず物語の流れに身を任せておけば、必ずその脳裏に豊穣な世界の展がりをみつけられるはずです。