『喜劇と格言』シリーズ第5弾はいままでの作品群とはちょっと異なる趣向が特徴だ。パリで秘書として働くデルフィーヌが、一人ぼっちに耐え切れずバカンスで訪れた避暑地を転々とする。『飛行士の妻』ではパイロットの不倫相手にふられ気のない年下の男につきまとわれる不幸なOL役だったマリー・リヴィエールが、本作品でも泣きっぱなしの孤独な女性を演じている。基本的には美人顔なのに、幸薄そうな雰囲気を漂わせるマリーにはまさにもってこいのキャスティング。<知り合う瞬間に決定的な行動をとれないでいる>ひっこみ思案のデルフィーヌは、男どころか動物も食べられない?菜食主義者という設定だ。
親戚の家に泊まっても、夏スキーができそうな山小屋を訪れても、避暑地の海辺で波とたわむれても、なぜかデルフィーヌは浮きまくり。彼女の周りに配した、素人同然のエキストラ風役者たちが、デルフィーノの孤独感を盛り上げるのに一役も二役も買っている。ロメールの金をかけない演出がここでも功を奏している。そんなデルフィーヌが夕暮れの海辺で耳にした“緑の光線”のうんちく話が、いつのまにかDr.コパのラッキーカラーみたいな扱いになっているのも強引といえば強引だが、よさげな男の前で涙を流しながら素っ頓狂な声をあげるデルフィーヌがどんだけ孤独に悩み苦しんでいたかがよく伝わってくる。
プライドが邪魔して異性と気軽に会話もできない女。酒井順子氏みたいに開き直ることができればどうってことのない負け組人生も、孤独にとびっきり弱いデルフィーヌにはきっと耐え切れなかったにちがいない。深遠なテーマを秘めた哲学的な映画にも、たわいもないロマコメにも思えるロメール作品は、いつも評価する時に困ってしまうのだが、この『緑の光線』に関していえば、愛すべきイヤ汁女が最後にやっとこつかんだ幸せを素直に祝福してあげたい1本だ。