どうやら、宰相の実質的値打ちと大衆が抱くイメージには、かなりの隔たりがあるらしい。60年安保世代には「のたれ死に」の観がある岸信介は「憲法や安全保障という国家のアイデンティティにかかわる事柄」と産業経済の双方での「卓越した仕事」が評価され、歴代3位の「81点」を得ている。これに対し、大宰相・吉田茂は占領時代こそ「68点」だが、独立後の政治にはわずか「27点」しか与えられていない。
「庶民宰相」田中角栄が「57点」で辛うじて合格点、大衆に人気のあった中曽根康弘が「40点」で落第点なのに、リクルート疑惑で沈没した竹下登が「消費税のような国民世論に人気がなくても国家の計に資する」政策を選択したことで「61点」を得ている。
独立後の吉田の評価が圧倒的に低い理由について、著者は吉田が憲法、安保、基地についての「欺瞞」を隠し続けたことを挙げ、「その欺瞞は今日まで維持されている」と断じる。そして、もし鳩山一郎(64点)が吉田の策謀で政治活動を封じられることがなかったら、憲法改正を実現させていただろうと惜しみ、反安保の国民世論に退陣を余儀なくされた岸の無念は「憲法改正に手をつけられなかったことだろう」と彼の心境に思いをいたすのである。
一方、田中は「中国をどう位置づけるか」の視点が欠けていたために、「日中友好のお題目」だけを残し、中曽根は中国、韓国に弱腰で「歴史認識の寸言を捉らえて閣僚を辞任させる」日本最大の悪弊を作った。2人はこの負の遺産において、大きく減点されているのだが、鳩山・岸に対する評価と田中・中曽根に対する批判に、日本の現状を歯がみする著者自身の口惜しさが垣間見えるのである。
なお、人気先行の小泉現首相はまだ「29点」である。採点基準は文芸春秋2002年2月号「福田和也:採点『歴代総理の値打ち』」に詳しい。(伊藤延司) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
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本書では、岸信介を筆頭に、在任中の評価とは無関係に、確固たる国家観に基づいて重要な決定をした総理を高く評価している。本書の白眉は吉田茂の評価であろう。福田氏の国家観・歴史観がよく表れている好著。
作家の値打ちと同様に、本書に対して賛否両論もっと議論が沸き起こってもよいと思う。
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