その人持ち前の感性だけに頼って絵画鑑賞をする事には限界がある。画家はその作品の中に自分のメッセージを凝縮して描くからだ。それはその絵が描かれた時代背景、生活習慣、理論とテクニック、更にはその時の画家の心理状態など実に多方面に渡っている。一つの絵画を構成しているこうした複雑な要素を総て知り尽くすことは殆ど不可能に近いが、著者が挙げている例に従って夫々の作品のメッセージを読み取っていくと、あたかも鎖されていた扉が開いて、その向こうにもう一つの別の絵が見えてくるようだ。感性を磨くとはこういう事を言うのだろう。例えば抽象画を理解する一つのヒントとして、カンディンスキー自身の体験談が引用されている。つまり縦に観るべき絵を、それと知らずに横の状態で観た時に感じる事ができた純粋な色彩の妙が、そのトリックに気付いた途端に消滅してしまったという逸話で、それはある絵の中に先入観を持って何らかの既存する物質的な形を追い求めると、それよりも重要なものが見えなくなってしまうという興味深い事実だ。色彩の美しさを一つの絵画の中に開放するには、時として形は妨げになるようだ。