著者は京大医学部を卒業後、90年からアメリカで医学を研究し、現在は医事評論の分野で健筆をふるっている人物。今も米国ボストン在住であり、長年見つめてきたアメリカの医療の「光と影」をまとめた一冊です。
2000年刊の
正編は今となってはさすがに記述内容が少々古くなってしまっているのではないかと思って手にしていませんが、この続編は2009年刊と出版後まだ3年しか経過していませんので、今回読んでみた次第です。
日本でも70年代に盛んに新聞報道されていたカレンさん事件以降の、延命治療中止をめぐる医療史から始まり、経口避妊薬ピルの開発と認可に向けた経緯、そしていまだに国民皆保険ではないアメリカの医療保険制度の闇など、日本人にとっても興味の尽きないアメリカ医療の課題を、大変分かりやすい文章で解説してくれています。
Pro-life派による反中絶テロが一気に下火になった大きな理由のひとつが、9・11同時多発テロであったというのは大変興味深い話です。テロリズムに対する激しい嫌悪が高まり、たとえ胎児の命を守るという大義名分のもととはいえ、テロには違いない過激な反中絶運動から世論が離反していったというのです。
そして著者がアメリカの現状を様々な角度でとらえることを通して真に訴えようとするのは、日本はアメリカの悪しき道をたどっているのではないかという大きな危機感です。
医療保険の分野で「公」を減らして「民」を増やすというアメリカの制度の後追いをすれば、限られた日本国民しか十分な医療にアクセスできなくなるということを、著者は繰り返し主張します。著者の記すアメリカの貧しい医療保険制度の実情を見るにつけ、かりに日本がそちらの方向へと向かっているのであるのだとしたら、確かに底冷えのする恐ろしさを感じないではいられません。