内地の兵営生活からインド洋の最前線ニコバル諸島守備隊そして終戦と捕虜生活までを、驚くべき記憶力で兵隊目線で描いた異色の戦記。
著者は、徴兵検査で甲種ではなく乙種合格の弱兵。それゆえか、一般社会に未練を持っていたのか、軍隊を見る目がシニカルではないが他人事のようにとぼけたところがある。
軍隊生活は20歳の若い頭に様々なことを詰め込むためだろうか、兵隊の戦記における著者たちの記憶力には驚かされることが多い。しかし、この著者は特別こまかく記憶している。人の名前、出身地、エピソードなど、著名な軍人なら書籍で調べられるが、著者が描くのは一等兵や二等兵、上官の軍曹殿といった召集兵たちのことである。
そして読んでいるうちに、軍隊が21世紀の会社にオーバーラップしてしまう。人間の組織だから、ああこんな奴会社にいるよな、こんな上司にそっくりだと納得してしまう。
著者が派遣されたニコバル諸島だが、インド洋からマラッカ海峡への進入路を封鎖するように存在する。連合軍がまっすぐシンガポールを目指せば、著者の部隊は名誉の玉砕が確実だった。実際にはビルマが主戦場となり、ニコバルに攻防戦はなかった。
しかし、時たま襲来する敵爆撃機や周辺で撃沈される友軍艦艇など、兵隊たちは真綿で首を絞められるような精神疲労に直面する。そしてマラリア。著者も罹患して苦しむ。その様が克明に描かれる。
古兵、上官、将官に対する恨みつらみもあるが、別に大見えを切って論じるわけではない。戦後社会で叫ばれる口先だけの平和主義や机の上だけの軍部批判とは明らかに一線を画する、今で言うなら旧軍兵士の「ツイッタ―」を読むような、どこか親近感を感じる。
軍隊を実に分かりやすく描いているので、中学生や高校生にも読ませたい一冊だ。良書である。