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絶対貧困
 
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絶対貧困 [単行本(ソフトカバー)]

石井 光太
5つ星のうち 4.6  レビューをすべて見る (33件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

出版社/著者からの内容紹介

スラム、物乞い、ストリートチルドレン、売春婦の生と性…… 1日1ドル以下で暮らす人々と寝起きを共にした 気鋭のノンフィクション作家が語る

内容(「BOOK」データベースより)

スラム、物乞い、ストリートチルドレン、売春婦の生と性…1日1ドル以下で暮らす人々と寝起きを共にした気鋭のノンフィクション作家が語る。泣けて、笑えて、学べる、ビジュアル十四講。

内容(「MARC」データベースより)

スラム、物乞い、ストリートチルドレン、売春婦の生と性…。1日1ドル以下で暮らす人々と寝起きを共にした気鋭のノンフィクション作家が語る「世界リアル貧困学」講義。

著者について

1977年、東京都生まれ、作家。海外の生活や文化に関する作品を数多く発表。主な著書に、アジアの障害者や物乞いを描いた『物乞う仏陀』(文春文庫)、知られざるイスラームの性や売春を描いた『神の棄てた裸体--イスラームの夜を歩く』(新潮社)などがある。また、活字以外でも、NHK等でのドキュメンタリ番組の制作を手掛けるほか、写真、漫画原作、ラジオなど幅広いジャンルで活躍する。講演や講座も各地で行っている。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

石井 光太
1977年、東京都生まれ、作家。海外の生活や文化に関する作品を数多く発表。また、活字以外でも、NHK等でのドキュメンタリ番組の制作を手掛けるほか、写真、漫画原作、ラジオなど幅広いジャンルで活躍する。講演や講座も各地で行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

抜粋

本文より3つのエピソードを抜粋

●ムンバイの町に、スルタナという年老いた女物乞いがいました。彼女は生後数カ月の女の子の赤子を借りて、物乞いをして暮らしていました。ずっと赤子と一緒に暮らして、儲かった分から借り賃を毎日支払っていたので、実質赤子につきっきりの生活でした。
スルタナは次第にその赤子を溺愛するようになりました。もともと彼女は不妊症で子供を授かることができず、それを理由に家庭内暴力を受けて夫から追い出され、物乞いになった過去がありました。だから、人の一倍レンタルチャイルドをかわいがり、我が子のように大切に育てていたのです。
六年が経ち、赤子は女の子になりました。すると、犯罪組織のマフィアがやってきて、スルタナに子供を返すように命じました。今のうちに売春宿へ売って雑用をさせ、ゆくゆくは売春婦にさせようとしたのです。
スルタナは彼女を我が子同然に可愛がっていましたから手放すことができませでした。娘も行きたくないと泣きだします。そこで二人は逃亡を図ることにしました。しかし年老いた物乞いの行き先なんてたかが知れています。マフィアはすぐに二人を捕まえ、スルタナを殺害し、娘を売春宿に売りました。娘は悲しみのあまり三日後に自ら命を絶ってしまいました。
この事件はムンバイの女物乞いたちの間に広がりました。それを聞いて以降、ムンバイの女物乞いたちは赤子をレンタルする時は愛情が移らないように数カ月置きに子供を取り替えることになったのだそうです。数カ月に一度赤ちゃんを取り替えれば誰か一人の子に愛情を注ぐということはなくなりますからね。この話をしてくれた女物乞いはこんなことを言っていました。
「女物乞いはみんな孤独なのよ。だからすぐに愛情を寄せてしまう。でも、そんなことをしていたら路上では生きていけないんだ」
 路上の誰もが何かで寂しさを埋めようと必死なのでしょう。ある人にはそれがシンナーであり、ある人にはそれがレンタルチャイルドなのかもしれません。

●私がチェンナイという都市で取材した例をご紹介しましょう。
この町の犯罪組織はインド各地から赤子を誘拐していました。そして子供が六歳になるまではレンタルチャイルドとして物乞いたちに一日当たり数十円から数百円で貸し与えるのです。前に見たように、ここではほとんど利益は得らません。
 やがて、彼らが小学生ぐらいの年齢に達します。組織はそのような子供を順番に障害を負わせていくのです。そのパターンとしては次のようなものがあります。
 ・目をつぶす
 ・唇、耳、鼻を切り落とす
・顔に火傷を負わせる
 ・手足を切断する
 一番簡単なのは「目をつぶす」ことです。鋭利な刃物で刺せば終わりです。ただし、途上国には感染症による盲人が少なくないため、あまり儲かりません。
 これよりは、「唇、耳、鼻を切り落とす」ことの方がお金にはなります。マフィアたちはナイフや剃刀でそれを切断するのです。指ぐらいでは効果はありません。顔でなければ喜捨につながるほどの悲惨なインパクトがないのです。
 この中では「顔に火傷を負わせる」と「手足を切断する」がもっとも収入に結びつきます。火傷の場合は熱した油をかけます。手足の場合は、子供を押さえつけ、斧や鉈のようなもので一気に切断するのです。
 ただ、手足を切断して治療せずに放置すれば当然出血多量で死んでしまいますよね。マフィアの目的は殺すことではなく、障害を負わせて物乞いをさせることです。
 そこでマフィアは二つの方法を取ります。一つが「闇医者に治療をしてもらう」ということです。マフィアが子供の手足を切断しておきながら治療費を払って治してもらうのです。治った後は「治療費の借金」という名目で彼らからお金を取り立てることがあります。
 二つ目の方法は「子供たちに自力で病院へ行かせる」というものです。すでに見てきたように政府の病院なら治療が無料だったりします。なので、マフィアは手足を切断した後、その子を病院へつれていって「事故にあった」と言わせて治療を受けさせるのです。そうすれば一銭もかからずに障害児をつくりだすことができるのです。
 マフィアはこうした障害児たちを町に配置し、物乞いをさせます。町によっては、障害児たちは一日に千円ぐらい稼ぐこともあります。もし五十人いれば、一カ月で百五十万円の収入になります。犯罪組織の違法ビジネスとしても相当割りのいい仕事と言えるでしょう。
 私がこの事件を取材していてもっとも関心を抱いたのは、犠牲となっている子供たちの心情でした。かつてムンバイの町のマフィアの隠れ家を訪れたことがありました。お金をつんで取材をさせてもらったのです。そこには、マフィアによって目をつぶされた子がたくさんいました。ある日、私はマフィアと口論をしました。なぜこんな残酷なことをするのかと思わず言ってしまったのです。そしたら、驚くことに、被害者である障害児がマフィアをかばってこう言ったのです。
「マフィアは何も悪くない。きっと僕がダメなことをしたから目をつぶされたんだ。すべては僕がいけないんだ。だからマフィアを怒らないで下さい」
 障害児は幼い頃に誘拐されてからずっとマフィアと暮らしていました。障害児は目の見えない状態でここを出ても行く所も生きていく術もないのです。つまり、ずっとマフィアと一緒に暮らすしかないのです。
しかし障害児はマフィアに怯えながら一緒に暮らしていたら、恐怖のあまり精神に異常をきたしてしまうでしょう。そこで、障害児たちは共存していくために、マフィアへの恐怖や恨みをすべて忘れ去ろうとしたのです。「自分が悪かったから目をつぶされたんだ」と自らを納得させて生きていたのです。

●私はテレビのドキュメンタリ番組にも関わっており、ある時途上国の貧困地区に生きる人々を追う番組に携わったことがありました。プロデューサー、ディレクター、カメラマンは全員日本人でした。
この時、日本の撮影クルーはスラムの子供がゴミ拾いをして生活している光景を映して「貧困の中でも明るく元気で生きるたくましい子供たち」というテーマを形にしようとしていました。
さて、そんなスラムの子供の中に、メイちゃんという十歳の女の子がいました。メイちゃんは病気の父親と二人で暮らしていました。母親も兄弟もいなかったのです。家計は彼女が廃品回収で稼ぐお金でなんとか成り立っていました。撮影クルーは彼女がゴミの山の中でたくましく生きる姿を追っていました。
ある時、ディレクターがメイちゃんにマイクを向けて、「どうしてそんなに明るく生きていけるのかな」と尋ねました。彼女はこう答えました。
「仕事は大変だよ。けど、悲しんでいても生きていけないよ。だから、今を笑って生きたいの」
ディレクターはこのセリフにしてやったりの笑顔を浮かべました。番組でつかえると思ったのでしょう。まさにテレビ番組の典型のようなシーンとセリフです。日本のテレビ番組には「こういうシーンを撮って、こういうセリフを乗せれば、番組として出来上がり。それ以外はNG」という変な方程式があるのです。
撮影は無事に終わり、数カ月後に放送されました。予定通り貧困の中の明るい無邪気な子供たちというテーマで特集が組まれたそうです。私は番組を見ていませんが、メイちゃんも映ったかもしれません。
私は撮影クルーが帰った後も、そのスラムに残りました。別に調べたいことがあって残ったのです。一週間、二週間と暮らしているとメイちゃんの家庭の別の側面が見えてきました。
それは毎晩十時過ぎに起きました。寝静まると、どこからともなく中年女性が髪をふり乱してやってきて、メイちゃんの暮らす粗末なバラックの壁を棒でもって叩くのです。大きな石を投げ込んだり、火をつけたりしようとしたこともありました。その度に、近隣の住人が駆けつけ、彼女を殴りつけて追い返します。ひどい時には、血がでるまで殴りつづけることもありました。
最初、私は中年女性をスラムに暮らす知的障害者だと思っていました。ところが、ある日メイちゃんからこんなことを言われたのです。
「あの女性は、わたしのお母さんなの。お母さんは十人ぐらい子供を産んだんだけど、わたし以外はみんな死んでしまったの。お母さんはそのせいでおかしくなって、わたしのことを『魔女』だって言いはじめたの。わたしが赤子の生気を吸い取っているから、赤子が死んじゃうんだっていうのよ。お父さんは怒って変になったお母さんを追い出したわ。けど、お母さんはわたしを殺せば他の子供が蘇ると思っていて、毎晩実家を脱走しては殺しに来るの」
 メイちゃんの母親は、赤子が立てつづけに死んでしまったため精神に障害をきたしてしまったのでしょう。お腹を痛めた子が十人もつづけて目の前で死んでいったら、そうならない方が変なのかもしれません。それですべてをメイちゃんのせいにして毎晩襲い掛かってきていたのです。
 私たちがテレビで見る「笑顔」も一つの現実です。しかし、メイちゃんの笑顔の下には、何人もの兄弟の死と母親の狂気があるのです。
私は今でもテレビや雑誌などで「子供たちの笑顔」という言葉を耳にする度に、毎夜髪の毛を振り乱してメイちゃんを殺しに来た母親のことを思い出し、素直にそれを喜んだり、感動したりすることができなくなってしまいます。

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