『絵具と戦争 従軍画家たちと戦争画の軌跡』を一気に読んだ。
誰も具体的に書かなかった日本画壇の戦前戦後の空白で何がおきていたか。
藤田嗣治、向井潤吉、宮本三郎ら、錚々たる日本の画家らは、戦争中、現地に派遣され、名画を残した。戦記、従軍記も残した。GHQは、これら日本の美術も「戦争を鼓吹した危険な絵画だ」として、持ち去った。GHQは何を恐れ、何を隠そうとしたのか。
「戦争画」といっても思想宣伝でも軍への阿諛追従でもなく、人間が極限状態でいかなる表情をつくるのか、どういう立ち居振る舞いがなされるかを、絵画を通して克明に表現した、いずれも名画といって良い作品群である。
没収された絵画のうち153点が米国から「無期限貸与」という形で20年後に返却され、これらを仔細に検証すると、例えば、「バターン死の行進」が全くの嘘であることが分かる。
バターンの死の行進? 米兵が行軍の途中で海水浴をしている。紅茶や医療サービスを受けている。捕虜収容所ではポーカーをやっている。日本が捕虜を残虐に扱っていない真実がありありと分かる。
天才画家藤田は愛国心から書いた。藤田はアッツを描き、ノモンハンを書いた。しかし戦後、藤田嗣治を絶望させ巴里に追いやった。その「日本の恥部」も明らかにされている。
本書は各戦線の典型的な名画を写真入りで配列し、それに付帯する解説や、当時の画家たちの従軍記の抜粋を並行させながら、あの大東亜戦争の全体像、その背後の真実に迫る。
本書には153点の一覧表と可視か否かが識別された図表もある。
これは誰もが脱帽するほどの労作である。