まず文章が柔らかい。読者の呼吸にそっとあわせるような、配慮の行き届いた文章が続く。決して大上段に構えるのではなく、謙虚に、そしてユーモラスにさまざまな臨床事象が取り上げられる。それは、患者と一緒に喫煙することの意味であったり、患者の話を逐一カルテに記録しながらそれを患者とともに眺めることであったり、話さない患者が示すごくささいな反応に注目することであったりする。そのようにつかんだ糸口から慎重に糸をたぐり寄せるために、筆者は洗練された精神病理学の方法を駆使する。それによって明るみに出される統合失調症の秘密に、読者は少なからぬ驚きを感じるだろう。熟練の精神科医が何を考えて臨床をしているか、精神病理学がどのように臨床を支えるのか、ということを明確に示してくれる。統合失調症の治療に携わる人すべてに読んでほしい書である。