フィデリティでリスク管理担当役員(CRO)をしていた著者による、ERMの概説書です。計量的なところを押さえていますが、算式は無いので、技術的な本というよりも考え方の解説をした入門書です。包括的でかつ事例が多いので読みやすかったです。
ERMを「企業価値を最大化するために、信用リスク、市場リスク、オペレーショナル・リスク、エコノミック・キャピタル及びリスク移転を管理する包括的かつ統合的枠組みである。」と定義しています。この定義を見ても分かるように、VaRはいずれ使用されなくなり、エコノミック・キャピタルが重要になるだろうと考えているようです。
実は原書を購入したのですが途中で挫折したところで翻訳が出ました。訳文は読みやすく、訳注が親切です。例えば、best practicesはベスト・プラクティスと訳した上で訳注として、「最優良事例、成功事例。ビジネスや経営では、最も優れていると考えられる業務プロセス、業務推進の方法、ビジネスノウハウのことをいう」と記載されています。
また、management should speak for the companyは「経営陣が会社について説明責任を負っている」と訳した上で訳注として、「説明責任は、日本語では説明すれば責任を果たしたことになるという印象を与えるが、本来は[説明すべき相手を納得させる説明を行う]ところまで責任を負っているという概念であることに注意が必要である。」と解説しています。
なお、監査業務はERMに吸収または補完されるだろうとし、ERMの立場から従来の発生主義会計よりも時価会計を支持しています。
私にとって特に有益だったのが、ポートフォリオ理論とERMとの関係です。企業が状況に受身になることはありえないので、パッシブなポートフォリオの理論ではなく、アクティブなポートフォリオの理論が応用できるということが、本書を読んではじめて分かりました。