2010年発表の13編(漫画1篇含む)と創元SF短編賞受賞作1編を含む年刊アンソロジー。
一推しは長谷敏司「allo, toi, toi」。変態性欲が何故起こるのか、「好き」という言葉でくくられたもろもろの概念を適切に識別できない言語の曖昧さ、錯誤にその原因があるのではないかという視点を基盤に、ある小児性愛者の囚人と、彼に「好悪を仕分けするソフトウェア」と「思考を文字化するデバイス」をつけてその性格改善の実験をする技術者の2人の視点を切り替えながら、性的倒錯の基本構造とその治療の可能性を緻密に考察している。科学技術アイデアを用いて純文学的なテーマに取り組んでいる作者の、現時点での頂点に位置する大傑作。この作者はむしろ、一般文芸誌に書いたほうが評価されるのではという気がする。
他で特に面白かったのは伴名練「ゼロ年代の臨界点」。1900年代の架空の日本SF黎明史を流麗な文体でつづった強烈な架空歴史「評論」。架空の日本SFを作り上げた3人の女性のキャラも立っているし、折々に紹介される架空のSF作品の着想やあらすじが面白すぎるし、SF的なオチに至るまで完璧。角川ホラー大賞でデビューした作家だが、今後のSF作品に期待したい。
瀬名秀明「光の栞」は「生きた本」をめぐるハートウォーミングな秀作。去年の瀬名作品は総じてレベルが高かったが、特に河出文庫「NOVA」シリーズ掲載の「希望」は、オールタイムベスト級の大傑作なので必読。同題のハヤカワ文庫の短編集にも入っている。
創元SF短編賞の西島伝法「皆勤の徒」は、社長(という生物)にこき使われる従業者(という生物)の視点から、いずことも知れぬ惑星の海上の製臓工場での悲惨な日常生活を、造語多用のグロテスクな異形文体でねちっこく描いている。文体・内容ともにこれ見よがしに奇を衒って異化しながらも、使い捨てにされる工員の悲しい日常を隠喩しているような内容に共感すらできてしまうのが面白い。労働基準法や雇用均等法など、ところどころに普通の名詞が顔を出すのがユーモラス。強烈な文体がインパクトの8割近くを占めているものの、物語としてもなかなかよくできている。
他の作品もバラエティ豊かで、かつ凡作が少なく、過去の年刊アンソロジーでは最もレベルが高い1冊だと思う。ちなみに、(個人的には佳作程度の印象だが)星雲賞受賞の小川一水「アリスマ王の愛した魔物」も収録。
※一点苦言を呈するなら、異形コレクションはいいとしても、編者が重なるNOVAからの収録は極力控えて欲しかったと思う。