独占禁止法は、他の科目以上に審決・判例(以下、「先例」とします)を学習することが必要不可欠な科目です。
ただ、先例のオリジナルにあたろうとすると、非常に詳細に事実が摘示されている一方で審決文が簡潔すぎたりと、その事実と審決がどのようにつながるのかが理解しにくいと思われます。また、事実関係についてもその業界や時代背景といった事情を知らないと、その事実がどんな意味があるのかを理解することが困難な場合があります。
そこで、先例の学習素材として判例百選が非常に有用と思われます。
まず事実概要は解説者が重要と思われる事実に絞って要約されています。そのため、記載されている内容に(学習という観点からは)無駄が少なく、学習者の負担を軽減しています。
そして、解説の内容も最新の条文に則するとどうなるのか、関連するガイドラインの紹介とその最低限の解説、審決がどのような事情をどう評価してその結論に至っているのかといったことがメインになされ、学説や自説の主張は他の百選と比べてあまりなされていません。編集方針がしっかりしているのか、全体を通じて極端に先例を批判し自説を展開するような学習者にとってはちょっと困ってしまう解説は少なく、安定した質が保たれているように思われます。
総じて、非常に学習者に配慮された教材であると評価できると思います。
逆にいうと、先例にどういった問題点があるのかといった発展的な内容は十分とは言えません。そう言った点については、
独禁法事例の勘所 第2版 (法学教室Library)といった書籍があります。もっとも、この点は学習者用の教材たる本書のマイナスポイントにはなりません。なんでもかんでも書いてあって、結局中途半端な教材になるよりははるかに使いやすくて良いと思います。
ついでに、
ケースブック独占禁止法 第2版 (弘文堂ケースブックシリーズ)との比較については、ケースブックは事実概要が本書より詳細に記載されており、オリジナルの読解訓練により近い学習素材といえます。個人的には本書とケースブックは択一的な関係にある教材ではなく、互いに補完する教材であると感じます。したがって、法学部生や初学者はまずは百選をきっちり学習することを優先するべきだと考えます。本書を一通り学習した上で、さらに理解を深め応用能力を鍛えるためにケースブックを利用すると良いでしょう。
なお、審決要旨が簡潔なため答案構成の参考にはなりません。他の科目で培ったものを応用すれば足りるとは思いますが、一応、根岸先生の「独禁法つれづれ草」(ウェブサイトですので検索すれば簡単にヒットすると思います)が参考になります。
一つだけ星を減らしたのは、同じ先例が複数回登場するのにその点が明示されていないことが気になったからです。見出しかなんかで明示してくれた方が混乱が少なくて済むと思うのですが。
以上、非常に個人的な感想で恐縮ですが、皆様の参考になれば幸いです。