小室直樹の本を読むときには襟を正す。彼の著作を初めて読んだ頃は、独特の紋切り型の文章に対する抵抗が強く、その凄さが胸に沁みてこなかったのだが、文体に慣れてくると内容の深さと広さが恐ろしいまでに伝わってくる。そうした凄さに敬意を表し、今、私は背筋を伸ばして小室直樹の本を開く。
本書は、ホッブズ、ジョン・ロックから始まり、アダム・スミス、リカード、マルクスを経て、ケインズ、サムエルソンまで、経済学の巨人たちの基本思想と学説のエッセンスを、実に見事に解説した大著である。300ページほどの本を大著と呼ぶのは、その中に詰め込まれた濃密で的確な内容の所以である。
経済学の父と呼ばれ「レッセフェール(自由放任)」を唱えたアダム・スミス、その思想に理論的な礎を与えたリカードなどの古典派には「失業」という概念はなかった。放っておけば失業状態は終息すると考えられていたが、世界恐慌はそれが誤りであることを示した。彼らを中心とする古典派理論に本質的な批判をなしえたのは、マルクスとケインズだけだったと著者は言う。
アダム・スミス対ケインズという軸にマルクスを絡ませ、さらには、マックス・ウェーバー、サムエルソン、森嶋通夫などを配し、古今の経済理論の大枠を切れ味鋭く提示したのが本書である。小室直樹の卓越した力量に改めて唸らざるを得ない。