宇沢先生のことは以前何かの記事で読んで、たいへん信用に足る人物であるとの印象を
受けましたが、実際読んでみて、期待通りでした。
思想としての経済を体現されている方だという印象です。
本書は、経済学史的背景を踏まえて経済学のあり方を考えると共に、必ずしもより良い
方向に進んでいるとは思われない現在の経済状況と社会の動向をもう一度捉えなおして、
今後の経済学の方向を考える、著作の時点での先生の総まとめといった感じの本だと思
われます。
80年代後半の冷戦の末期、日本のバブル最盛の時期に書かれた本ですが、その内容は
近年の金融危機に繋がる資本主義的問題が鋭く指摘されており、今読んでも十分意味が
あるのではないでしょうか。
本書で取り上げられる主な経済学者は、アダム・スミス、リカード、マルクス、ワルラス、
ヴェブレン、ケインズ、ジョーン・ロビンソンといった面々であり、いずれも経済学で
は著名な人物ですが、これは宇沢先生の経済学への考えも反映しており、たいへん含蓄
ある人選ではないかと思われます。
中で、日本経済の社会的不均衡について若干の記述がありますが、それは目覚しい日本
経済のパフォーマンスに比べて国民の実質生活水準の低さを指摘するものであり、国民
生活の犠牲の上に経済大国日本が成立しているのではないか、それは新古典派的市場主
義による帰結ではないかという、まさに現在の新自由主義経済による行き過ぎた競争に
よる様々な弊害へと繋がる内容に、ぶれない先生の一貫した姿勢を感じます。
注目は、本書の末尾において期待の若手経済学者として挙げられたマカロフとスティ
グリッツであり、二人とも後にノーベル経済学賞を受賞することになります。
現在、スティグリッツの展開するグローバリズム批判とIMF批判は、まさに本書の流れ
に依拠したものと思われ、経済学の一つの確かな流れを適確に捉えている宇沢先生の
慧眼には恐れ入ります。
本書は、宇沢先生による現代経済学の指南書であり、経済学をどのように考えれば良いか
を考えるヒントがちりばめられていると思われます。経済理論についてはやはり難しい
ところがあり、やや偏った論証の印象もありますが、先生のスタンスは一貫しており、
心のある経済学の系譜がここにはあると思います。