経済的な価値と自然の価値。これは今日私たちが直面している最も深刻な価値対立の一つだろう。産業革命を果たし、資本主義に邁進する19世紀のイギリスにおいて、この価値対立の問題を深く追求し、資本主義経済の理論的背景を与えた当時の経済学者たちを真っ向から批判したのが、本書で取り上げられるラスキンである。美しい自然と人生を尊ぶ「穏やかな経済」を選ぼう、というラスキンの訴えは、あらゆる価値を金銭的価値に一元化してきた伝統的な経済の限界があちこちで明らかになっている現代において、ますます切実に響く。
著者はラスキンの思想を詳細に説明するだけでなく、その思想を古代ギリシャにまで遡り、功利主義、古典派経済学、ロマン主義、ガンジーの非暴力主義、ディープエコロジーに至る思想史において位置づけている。またラスキンの美術論や個人としての様々な活動を描くことで、彼の訴えが単なる一経済理論ではなく、彼の人生を導いた実践的指針であることをも明確にしている。