数理計画、ORのテキスト(例えば、福島雅夫『数理計画入門』など)の最適化と経済学の最適化とは内容が違い、ORのテキストを使って経済学の最適化を学習しようとしてもうまくいかないかもしれない。
本書は日本語の経済学での最適化(経済学最適化は大きく静学的最適化と動学的最適化に分かれ、前者はラグランジェ、クーン・タッカー定理、後者はハミルトニアン(The Maximum Principle)、動的計画法(Dynamic Programming)が主に講じられる)の解説書である。現在は日銀の審議委員である著者だが、経済学の考え方を上記に挙げた最適化理論で表現する方法をやや抽象的ではあるが解説している。そのため、初学者には難解で、挫折する可能性は大きいのではないかと考える。
しかし、本書出版当時に比べ既に経済学の最適化関連書籍は、西村和雄『ミクロ経済学』東洋経済新報社(岩波書店から出版されている同じ著者による『ミクロ経済学』にも簡潔ではあれ動学的最適化の議論がなされている)、Varian,Intermed Microの数学付録、(以上、ラグランジアンによる静学的最適化)、小野善康『金融第2版』・『貨幣経済の動学理論−ケインズの復権−』、Barro&Sara-i-Martin(邦訳あり)の数学付録(以上、ハミルトニアンによる動学的最適化)、Varian,Microeconomic theoryの数学付録(以上、DPこと動的計画法の初歩)、さらに、Dixit,Optimization in economic theory(邦訳あり)や西村・矢野『マクロ経済動学』、斎藤『新しいマクロ経済学新版』の2章付録、chiang(邦訳あり)など、経済学の静学・動学的最適化理論の使用法を学び取る資料は充実してきた。
さらに、英語が苦手でないなら、Maurice Obstfeld,Dynamic optimization in continuous-time economic modelsが同氏のカリフォルニア・バークレー校のHPからダウンロードできる。こちらも、動学的最適化法が簡潔にまとめられている。日本語では、北海道大学工藤教孝氏の「動学的最適化入門」も同氏のHPからダウンロードできる。
最適化手法は今日の経済学を知る上で必要不可欠である。経済学徒にとって避けて通れないが、初期の段階として(1)微分・差分方程式の基礎、(2)位相図の記述、(3)線形近似、固有根と特性方程式、(4)サドルパスなど、の考え方を知っていれば心強い。一部の上位校を除き、残念ながら最適化理論をまともに講じる大学はファイナンス等実務的教科理解のための要請から増えてきたかもしれないが、独習に苦労を強いられる罪なき経済学徒は多いことだろう。
西村清彦氏の書籍レヴューにおいて、同氏の文献以外にも論じたが、日本語で経済学の最適化手法を論じたのは、本書出版から20年以上経つ今日においてもなお本書のみしかなく、本書の耐用年数は高く、書棚に置く価値は間違いなく高いだろう。