経済・政治の混乱、暴動、テロ、地震・津波をはじめ1997年以降の相次ぐ混乱と停滞を乗り越えて、インドネシアは、中国、インドに続くアジア第三の新興経済大国として頭角を現しつつある。
本書で著者は、(1)2004年のユドヨノ大統領の誕生により確立した民主主義体制のもとでインドネシアの政治体制の安定が中期的に確保されたこと、(2)これから2030年にかけて生産年齢人口が総人口に占める割合(生産年齢人口比率)が上昇して経済成長が促進される効果(人口ボーナス)が最も大きくなる時期に差しかかること、の二つの条件を得た今、インドネシアはまたとない持続的成長のチャンスを迎えていることを明らかにする。
著者の本領が最も発揮されるのは、このようなマクロ的な構図の中で、実際に経済成長を支えるプレイヤーの姿を追う記述だろう。わけても経済危機前のスハルト時代に経済運営に影響力を及ぼした経済テクノクラート(ウィジョヨをはじめとする「バークレー・マフィア」)がワヒド政権下以降「冬の時代」を迎え、そしてユドヨノ政権下では「バークレー・マフィア」の孫世代の経済テクノクラート(スリ・ムルヤニ、ハティブ・バスリ)が存在価値を高めている状況などを多くの具体例で示す第5章は著者ならではの見立てで秀逸だ。
それにしても本書のどの部分からもうかがわれるのは著者のインドネシアに注ぐ慈しみある眼差しだ。本書を貫く著者の確かな視点と両々相俟って本書をとても魅力あるものにしている。