山田浅右衛門吉利が主役の連作短編集。
吉利は、山田浅右衛門の七世。徳川家御佩刀御試御用役を家職として、刀槍の試し斬りを死体を使っておこなう据物師。時代背景は、安政の大獄頃だ。
短編それぞれが、死に値する罪を犯した人々を中心に、物語がつづられていく。情夫に逢いたいがため旦那に毒を盛った女。同情心があだとなり捕縛された夜盗。惚れた女に暴力を振るう夫を刺殺した男。息子のために労咳薬を盗もうとした女。吉利の門弟を斬殺した辻斬りの男。吉田松陰を救出しようとした吉利の門弟の志士。
彼らの人生に終止符を打つ時にみせる、吉利の慈愛、苦悩、怒りが余韻として読了後も心に残るだろう。吉利と、嫡男 吉豊(八世)、次男 在吉 や、門弟達との温かい交流も物語に上手くとけ込んでいるようだ。
山田家は、死体の肝を労咳薬として販売していたのだけれど、これも短編の中で取り上げている。この気味の悪い事実については、吉利の正当だという説得力はいまいちかもしれない。実際には、山田浅右衛門は、身分を浪人として扱われていたらしいが、このあたりの苦悶は本書では表現されていなかったなぁ。
鳥羽亮氏を読むのは小説は初めてだけれど、斬首の場面は凛とした美しさを感じるし、斬りあいの場面は迫力満点だ。実に、満足度の高い作品であった。